のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

世界を知る力

2010年05月26日(水)


寺島実郎著
PHP新書
2010年1月5日発行
720円
 アメリカの一極支配に陰りが見えてきた今、これからを考える時に読むべき1冊ではないかと思う。過去の事実を客観的に振り返り、空虚なマネーゲームと訣別し、技術を育て事業を育てる、「育てる資本主義」こそが、日本の進むべき道であると思う。

1.世界を知る力
 「世界を知る」とは、断片的だった知識が、様々な相関を見出すことによってスパークして結びつき、全体的な知性へと変化していく過程を指すのではないだろうか。
 「世界を知る力」を養うためには、大空から世界を見渡す「鳥の眼」と、しっかりと地面を見つめる「虫の眼」の両方が必要だと考えている。その虫の眼を鍛えるのは、なんといってもフィールドワークである。深い知恵は、フィールドワークと文献の相関の中でしか生まれない。

2.知を志す覚悟
 不条理に対する怒り、問題意識が、戦慄のごとく胸に込み上げてくるようでなければ、人間としての知とは呼べない。単なる知識はコンピュータにでも詰め込んでおけばよい。世界の不条理に目を向け、それを解説するのではなく、行動することで問題の解決にいたろうとする。そういう情念をもって世界に向き合うのでなければ、世界を知ってもなんの意味もない。

3.未来志向の関係
 「賛成はできなくても、相手の主張の論点は理解した」という姿勢をもつことが肝要だ。近隣諸国と「未来志向の関係」を築こうと考えるのであれば、自分たちの主張は主張として臆することなく伝えつつ、相手の論理、論点を虚心になって理解する姿勢が必要だ。

4.固定観念
 固まった世界認識を持つことは、「世界」が大きく変化する状況では非常に危険なことである。戦後を生きたほとんどすべての日本人が、特殊な世界認識の鋳型、固定観念(アメリカを通してしか世界を見ない)を身につけてしまった。そのことを自覚するところからしか、「世界を知る力」の涵養は望めない。
 20世紀初頭から続いた密接な米中関係があったからこそ戦中の悲劇的な日米関係がもたらされたこと、そして、戦後に米中関係の混乱があったからこそ日米同盟がもたらされたことを忘れてはなるまい。
 ところが戦後の日本人は、対米依存を深めるあまり、その背後に米中関係があるという重要な認識を欠落させたまま生きてきた。いつのまにか、「アメリカのアジア政策は常に日本を基軸とする」という幻想にとりつかれてしまった。だから、「日米の力で、新たなる脅威=中国に対峙しよう」などという、歴史認識を欠いたはなはだ浅薄な議論が登場したりする。

5.日本、アメリカ、中国
 日本人の多くは「大東亜戦争(連合国側の呼び方では太平洋戦争)」における敗戦を、今でも「アメリカに負けた」と思いこんでいる。「大和魂は一歩も引けを取らないほど強靱だったが、米国の物量にねじ伏せられた」と。戦勝国には中国も含まれているのに、「中国に負けた」と認識している人は滅多にいない。しかし、歴史を正しく認識し総括しようとするなら、日本が「アメリカと中国の連携に敗れた」ことから目を逸らしてはならない。
 日本は、日清戦争(1894~1895年)の勝利によって、それまでの2000年にわたる中国崇拝のスタンスから中国蔑視のスタンスへと180度転換した。アジアにおいて新規参入者だったアメリカは、中国からすれば欧州や日本を牽制するカードとして充分活用できるものだったため、同じ帝国主義列強とはいえ、アメリカだけは、「相思相愛」の関係として中国に迎え入れられた。
 もしも蒋介石が中国全土を掌握し続けていたなら、アジアの秩序は戦勝国のアメリカと中国によって完全に仕切られ、日本の復興と成長は30年以上遅れたに違いない。しかし、中国が2つに分かれたことで、日本の復興と成長の道が開けた。「共産中国を封じ込めるためには、日本を西側陣営に取り込み戦後復興させるしかない」。こうして1951年サンフランシスコ講和条約と旧日米安保条約が締結された。

6.ロシア
 ロシア、サンクトペテルブルクにピョートル大帝直々の命令で、日本語学校が設立されたのは1705年、日本史に置き換えると、赤穂浪士の吉良邸討ち入りの頃(1702年)である。ペリーの浦賀来航(1853年)よりも150年も前のことである。日米関係よりはるかに長い、300年を超える歴史を有することになる。
 また、白系ロシア」とは「肌の色が白いロシア人」という意味ではない。共産主義の赤に対する白、つまり革命に反対する王党系を意味する。そういう人がウクライナには大勢いて、その人たちが極東に流されてきた結果、「白系ロシア人」は北海道の住民にもなじみ深い存在となった。

7.ユダヤ人
 流浪の民であるユダヤ人には、その土地で採れる資源やものによって豊かさを確保しようという発想はない。どこに流れ着いても活用できる目に見えない価値、すなわち、技術や情報を習得することで身を立てようとするのがユダヤ人なのである。

8.イギリス
 イギリス連邦には3つの共通点がある。一つめは英語という共通言語、二つめは文化遺産、そして3つめが行政・教育・司法などの法的システム・制度設計。いずれも、社会生活と文化を根底で支えるインフラと言える。
 意思疎通の密度の高いグループは生き残り、弱いグループが敗退する。そのとき、言語・文化・法的な仕組みが共通していることは計り知れない強みとなるだろう。

9.大中華圏
 私たち日本人は、中華人民共和国の民を「中国人」と呼ぶ。しかし、欧米人が「チャイナ」とか「チャイニーズ」と呼ぶ場合は、中華人民共和国やその国民を意味しない。世界に約6000万人散在しているといわれる華僑も含めて呼んでいる。
 中国本土をはじめ、香港、台湾、シンガポールも「中華民族」として深層底流では合致している。そして、それぞれの役割をうまく分担する形で大中華圏を形成している。

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