のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

ゾウの時間ネズミの時間

2009年04月16日(木)


    サイズの生物学
本川達雄著
1992年8月25日発行
中央公論社
680円

 読み継がれてきたことに納得できる本である。
 動物が変われば時間が変わるということを知った時は、新鮮なショックを感じた。時間が違うということは、世界観がまったく異なるということである。時間とは、最も基本的な概念である。しかし、自分の時計は何にでも当てはまると、なにげなく信じ込んで暮らしてきた。そういう常識をくつがえしてくれるのが、サイズの生物学である。一生を生き切った感覚は、ゾウもネズミも変わらないのではないかと思う。
 サイズを考えるということは、ヒトというものを相対化して眺める効果があり、ヒトの自然での中の位置を知ることが出来る。人が己のサイズを知る、これは人間にとって、最も基本的な教養であろう。

1.時間は体重の1/4乗に比例する
 体重が16倍になると時間が2倍になる。寿命を始めとして、大人のサイズに成長するまでの時間、性的に成熟するのに要する時間、赤ん坊が母親の体内に留まっている時間など、すべてこの1/4乗則に従う。息をする時間間隔、心臓が打つ間隔、腸がじわっと蠕動する時間、血が体内を一巡する時間、体外から入った異物を再び体外へ除去するのに要する時間、タンパク質が合成されてから壊されるまでの時間、等々。
 体のサイズに応じて、違う時間の単位があることを生物学は教えてくれる。生物におけるこのような時間を、物理的な時間と区別して、生理的時間と呼ぶ。

2.心拍一定の法則
 時間に関係のある現象がすべて体重の1/4乗に比例するなら、時間に関係するものを組み合わせて割り算すると、体重によらない数が出てくる。例えば、息を吸って吐いて、という繰り返しの間隔の時間を心臓の鼓動の間隔時間で割ってやると、息を1回スーッと吸ってハーッと吐く間に、心臓は4回ドキンドキンと打つことがわかる。これは哺乳類ならサイズによらず、みなそうだ。寿命を心臓の鼓動時間で割ると、哺乳類ではどの動物でも、一生の間に心臓は20億回打つという計算になる。寿命を呼吸する時間で割れば、一生の間に約5億回、息をスーハーと繰り返すと計算できる。

3.小さいものほど変異が起こりやすい
 小さいものは一世代の時間が短く、個体数も多いから、短期間に新しいものが突然変異で生まれ出る確率が高い。また、小さいものほど移動能力が小さいので、隣の仲間から地理的に隔離されやすく、したがって新しく変異で作られた集団が、独自の発展を遂げる機会が多い。また、小さいものほど環境の変化に弱いので、たまたまうまく適応したものを残してあとは淘汰されてしまうという可能性も高いだろう。こう考えると小さいものが新しい系統の祖先になりやすいことが理解できる。

4.島の規則
 島に隔離されると、サイズの大きい動物は小さくなり、サイズの小さい動物は大きくなる。捕食者という制約がなくなると、ゾウは小さくなり、ネズミは大きくなって、哺乳類として無理のないサイズに戻っていく。島国の環境では、エリートのサイズは小さくなり、ずば抜けた巨人と呼び得る人物は出てきにくい。逆に庶民のスケールは大きくなり、知的レベルは極めて高い。動物に無理のないサイズがあるように、思想にも人類に似合いのサイズがあるのではないか?日本という島国とアメリカという大陸国、これらの違いを考えた上で、生物学や古生物学も参考になるのではないか。

5.サイズとエネルギー消費量
 哺乳類では、心臓が1回打つ間に消費するエネルギーは体重に関係なく、1キログラム当たり0.738ジュールとなるし、一生の間の総エネルギー使用量は、15億ジュールと一定になる。ちなみに15億ジュールとは、灯油に換算すれば40リットルを燃やしたエネルギーにあたる。
寿命はサイズによって大きく変わるが、一生に使うエネルギー量は、体重1キログラム当たりにすると、寿命の長さにはよらず一定である。短い命は激しく燃え尽きると言うことか。

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