炭素はすごい
2021年03月18日(木)
なぜ炭素は「元素の王様」といわれるのか
齋藤勝裕著
2019年2月25日発行
サイエンス・アイ新書
1000円
炭素原子は水素原子の核融合によって恒星で誕生した。地球だけではなく、全宇宙に広く存在している。構成元素を調べると、炭素は宇宙全体では4位だが、地球全体では15位にも入らずランキング圏外。地殻では15位に姿を現す。地球上で炭素が多いのは地表。野山を覆う緑、そこで暮らす動物、舞い飛ぶ昆虫など、ありとあらゆる生物を作る主要元素として君臨している。
「オッド・ハーキンス」の法則
水素とベリリウム原子を除けば、原子番号が偶数の元素は隣り合った奇数の元素よりも多く存在する。原子が安定であることに基づくものと解釈されている。
1.光学異性体
分子式は同じで、構造式の異なる分子を異性体という。性質も反応性も異なり、全く別個の分子。
www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/chem/isomer.html
光学異性体は、右手と左手の関係、鏡像関係にある異性体。化学的性質は全く同じだが、生物に対する影響(反応性)は全く異なる。
①うま味調味料グルタミン酸
www.ajinomoto.co.jp/amino/manabou/kuwashiku1.html
アミノ酸には2つの光学異性体が存在する。それぞれをD体、L体という。自然界に存在するアミノ酸はL体だけ。実験室で化学的に合成すると、D体とL体の1対1混合物をとなる。生体が作るとすべてL体になる。
うま味調味料グルタミン酸を以前は化学合成で作っていたので、100gのうち「うま味」があるのはL体の50gだけで、50gは味も素っ気もなかった。しかし、現在は微生物による発酵で作っているので、L体しか作らず100g全てにうま味がある。
②サリドマイド
www.nitech.ac.jp/news/press/2018/7114.html
1957年、西ドイツの製薬会社がサリドマイドという睡眠薬を開発し市販した。ほどなくして、重篤な副作用があることが分かった。妊娠初期の女性が服用すると、四肢に異常がある、特に両手の腕がない赤ちゃんが生まれた。全世界で3900人、日本でも309人が誕生した。
原因はサリドマイドの光学異性。2つのうち片方には催眠性があり、もう片方には催奇形性があった。どちらの構造式のものを服用しても、体内に入るとおよそ10時間で1対1の混合物になる。胎児の毛細血管の発生を阻害することによるもの。
2.光合成と酸素運搬
植物と動物の分子レベルで見ると、その中枢部は意外と似てる。DNAは同じもの。
植物はクロロフィルという有機化合物で光を受け、そのエネルギーを利用し、二酸化炭素と水を原料として各種の炭水化物を合成する。クロロフィルの分子構造は、有機物でできたポルフィリン環構造の中に金属原子であるMgが入っている。
哺乳類は体内の酸素運搬にヘモグロビンを使う。これはタンパク質とヘムという有機分子からできた複合体。このヘムの分子構造は、クロロフィルとそっくりで、ポルフィリン環の中に鉄原子Feが入っている。
3.コラーゲンを食べれば美肌になる?
動物タンパク質には、酵素やヘモグロビンなどの機能性タンパク質と、体を作る構造タンパク質がある。構造タンパク質では、毛や爪を作るケラチンや、腱や靱帯をつくるコラーゲンがよく知られている。コラーゲンは体を作る重要タンパク質であり、動物の全タンパク質の1/3はコラーゲン。
ケラチンもコラーゲンも分解されれば全て20種類のアミノ酸になる。ケラチンを含む毛や爪を食べて髪を増やそうという人はいない。コラーゲンも食べれば分解されてアミノ酸になるだけ。もう一度コラーゲンとして再生する確率は、他のタンパク質と同じ1/3に過ぎない。
4.体に悪いトランス脂肪酸
www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/
細胞膜はリン脂質という有機化合物からなり、その原料が油脂。油脂は生命体が生命体であるための、決定的重要な材料。油脂は、常温で個体のものを脂肪、液体のものを脂肪油という。哺乳類の油脂は脂肪、魚介類や植物の油脂は脂肪油。
油脂1分子を分解すると、1分子のグリセリンと3分子の脂肪酸になる。脂肪酸には、炭素鎖に二重結合を含む不飽和脂肪酸と、含まない飽和脂肪酸がある。脂肪の脂肪酸は飽和脂肪酸、脂肪油の脂肪酸は不飽和脂肪酸。
脂肪酸の二重結合には、各炭素に1個ずつ水素がついている。2個の水素が二重結合の同じ側についたものをシス体、反対側についたものをトランス体という。自然界に存在する不飽和脂肪酸は全てシス体。IPAもDHAもシス体。自然界に存在するオレイン酸もシス体。ところが、人工的に作った硬化油に含まれるオレイン酸はトランス体。
トランス脂肪酸は健康によくない。悪玉コレステロールを増加させ、心血管疾患のリスクを高める。2003年にWHOは「トランス脂肪酸の摂取量を約2g未満/1日に控えるべき」と勧告。
5.デンプンとセルロース
多糖類には、αグルコースからできたデンプンと、βグルコースからできたセルロースがある。グルコースは、立体構造の違いによってα型とβ型がある。草食動物の消化酵素は両者を分解できるが、人間の消化酵素はデンプンしか分解できない。人類の存続にとって大きなハンディキャップ。セルロース分解菌を腸内に増殖できれば、健康によいとされる乳酸菌などよりも人類にとっての福音になる。
6.石鯛の毒「パリトキシン」
珊瑚礁に棲むスナギンチャクが産生する毒。食べると激しい筋肉痛が起こることがある。 磯釣りの王者石鯛には「毒がある」といわれる。餌の中に含まれる毒を石鯛が体内に溜め込んだもの。日本近海の水温が上がったせいで、昔は南洋にしか存在しなかった「珊瑚礁の毒」が日本近海に現れたため。季節によって強弱がある。
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