ドラッカーさんが教えてくれた経営のウソとホント
2011年06月16日(木)
酒井綱一郎著
日経ビジネス文庫
2008年11月1日発行
714円
2005年11月に、95歳で亡くなられた、社会生態学者であるピーター・ドラッカーさんとの数回にわたる直接対話から生まれた本です。小規模な企業や様々な組織のあり方を考える上でも参考になると思います。外の世界と交流をはかり、既成概念に縛られず、現場で没頭できるものを持ち続けていきたいです。
1.外部情報の重要性について
『顧客によく聞きなさい』と経営者はよく口にします。だが、この原則に従っているだけでは、真の情報は得られません。最も成功している企業でも市場で握っているシェアは30%です。7割の客が製品を買っていないか、知らないということです。その産業の中にいて成功している企業は、自分たちの過去の成功に酔ってしまって変化を見失い、自分たちのサービスは永遠だと勘違いしてしまいます。従来の分類ではとらえ切れない新産業が誕生しても、既存企業の内部情報ではその変化をキャッチできません。当事者よりも第三者のほうが物事の先が見えやすいです。
2.アウトソーシング
地域別アウトソーシングの受託規模を見ますと、インドがダントツのトップです。2007年で見ますと、インドの市場規模は341億ドルで、市場の1割を握るアウトソーシング大国です。また、世界のアウトソーシングサービス提供企業のランキングトップ100社のうち、アメリカ企業が7割を占めています。インドが15社、中国が6社ランキングしています。ちなみに、日本企業は1社も入っていません。
日本がアウトソーシング後進国になったのは、仕事を委託する日本企業が少ないからです。委託企業の業務プロセスが標準化、可視化されていないために、業務の切り出しが難しいです。「我が社独自のやり方」「我が現場独自のやり方」にこだわりすぎです。
3.ヨコにも展開
1969年、人類史上初めて月に着陸しました。当時の月ロケットには、新しい要素技術はいっさい使われていませんでした。既にこの世に存在する部品だけを集めて月ロケットを開発しました。想像を絶する過酷な環境下にある宇宙では、最高の品質と信頼性を備えた技術、部品でなければなりません。
1950年代半ば、新幹線プロジェクトはスタートしました。鉄道で何よりも大事なのは安全です。時速200キロメートルの壁を越えるために新しい技術を開発するのではなく、実証済みの技術を組み合わせて挑戦しました。
4.イノベーションとは、組織的な営み
イノベーションとは、一人の人間の天才的ひらめきだけで生み出されるものではありません。一人で走るマラソン型の発明よりも、何人もの人間がバトンを渡して走る駅伝型の発明のほうが、より成功例が多いです。
世界で最も普及しているOSは、マイクロソフトのウィンドウズではありません。トロンです。トロンを開発したのは、東京大学の坂村健教授です。携帯電話を動かしているOSのほとんどはトロンです。自動車のエンジンの制御にも使われています。ネット家電、情報家電などの「組み込み型OS」の世界でトロンは世界を圧巻しています。
5.リーダーの資質は何か
変化の激しい時代には経験則だけでは対応できません。専門家の部下のほうが上司よりもよく知っているということは常に起きるのです。だからといって、彼らに全ての権限を与えることにはなりません。どんな時代でも上から下へ指揮、命令することが重要です。最終的に誰かが命令することがなければ、意志決定はできません。
良きリーダーには、自分の専門性を愛する部下や追随する人が増えます。部門の長の役割は、現在ある組織から最上の成果を引き出すことです。しかし、トップマネージャーの仕事は、現在の仕事を解体して新しいものをつくりだしていくことです。そして、組織の進む方向性を決定していくことです。
6.イノベーションとは、技術ではなく、社会インフラの革新
自分たちの時代が何でもすごいと思いがちですが、歴史を振り返れば、もっと強烈な時代があったことを知ります。現段階での情報革命は、15世紀の印刷革命に比べれば衝撃度はまだ小さいです。グーテンベルクが発明した印刷技術によるコストの削減は今の比ではありません。
印刷技術の発明によって書籍が普及し、その結果として次から次へと大学が生まれ、教育制度を根底から覆したのです。また、聖書やキリスト教の解説書を自らの目で読むことができるようになり、宗教改革の下地を作りました。それに比べれば現在のハイテクは社会構造を変えるまでに至っていません。
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