トヨタはどうやってレクサスを創ったか
2011年03月23日(水)
“日本発世界へ”を実現したトヨタの組織能力
So It’s TOYOTA
高木晴夫著
ダイヤモンド社
2007年9月28日発行
1800円
本書は、トヨタと関係会社の方々に対し直接インタビューし調査した情報を基に、「日本発世界」を可能にした組織とリーダーシップについて書かれている。世界一の規模になろうとする日本一のトヨタが、バブルが弾け、国内シェア40%を割り込んだ2000年の時点で、危機の予兆を嗅ぎ取り、その10年後を見据えた課題を見つけ、その課題に対する解決策を練り、ブランドの再構築に挑んだ。そして、日本の価値、日本の文化、日本のよさを世界へ発信した。
右肩上がりの成長を望めない今日、ここに隠されたヒントに気づき、余剰の経営資源の活用と人のつながりを工夫していきたい。
1.トヨタとレクサス
巨大な組織の中に、バーチャルな組織、カンパニィ・イン・カンパニィを作り上げた。トヨタのキーワードが「顧客の広がり、速く、効率的に」なのに対して、レクサスのそれは「顧客との関係の深さ、時間を掛けて、丁寧に」ということになる。レクサスは、効率よりもお客様中心に、トヨタ流ではない全国一律のおもてなしに徹することを重視した。それが、自動車業界ではなく、あらゆるサービス産業のナンバーワンになることを目指した。
「もともと笑顔が素敵な人」「お客の喜びが自分の喜び」「接客業が楽しくて仕方がない」「人が好き」といったことは、教えて教えられるものではない。
2.「人ベース」の組織
日本の組織の特徴は「仕事」ではなく、さきに「人」に意識を向けることにある。人が仕事を造っていく。人ベースの組織はトップダウンではなく、ボトムアップで動く。
米国型組織での採用は基本的に中途採用である。「その仕事」に人が必要となったので採用する。採用の前に仕事が定義されていなければならない。加えて、組織のトップ層が頭脳であり、その下層が手足という構造だ。
日本企業に組織のフラット化・チーム化が導入され、しかも同時並行で成果主義が導入された。成果主義は「仕事ベース」組織の基本理念に整合するやり方であり、仕事と人が1対1になる。結果的にこの組み合わせが、チーム組織の動きを悪くした。しかし、トヨタは、年功序列こそ廃止したものの、終身雇用を維持し、日本的でボトムアップの経営を続けている。人々はそれぞれに工夫し、有機的な仕事の繋がりをつくった。
3.「腹落とし」
トヨタでは会議が長い。とことん話し合うから結論を得るまで時間がかかる。しかし、一度結論が下されると、その後の動きが早い。もちろん、伝達係ではなく、それぞれがある程度の戦略を持ち寄り、調整することが要求されるから、それに応じたメンバーが必要になる。
「腑に落ちる」まで議論することで行動への意志を共有することが目的である。トヨタという組織は、良いも悪いも権力にへつらって動くという組織ではない。特に技術部はそうだ。納得させることができれば、動く組織文化なのだ。
4.横に効果的に動く組織
トヨタには、クロスファンクショナル(機能横断)文化が根付いている。縦の組織に横串を刺す会議体がある。組織が縦に動くと個人が横に動く柔軟性がある。横に効果的に動く組織であるための大前提は、縦がしっかりした組織であることだ。もう一つの前提は、組織のメンバー一人ひとりが、whatとhowを横につながつて創り出せるような能力強化を人材育成で行っておくことである。
5.人材育成
変革に参加することが、人材育成における一番の妙薬である。ゼロから自分たちで考える時は、『本当にこれでいいのか』ということを真剣に考え、何度となく吟味する。現状を変えること、刺激を与えることで人は育つ。
人の成長を阻害する、もって企業の成長を鈍化させる最大の要因は、『成功体験の呪縛』である。しかし、その呪縛をトヨタは克服してきた。その方法論の一つが「カイゼン」であり、ゼロベースのプロジェクトに若手を集め、「自分たちで考え、自分たちで作れ」と突き放す文化である。トップが、現場のリーダーの活動に自らの手で支えてはいなくとも、決してはしごを外さない勇気と忍耐を持っている。
6.ブランド
ブランド価値というものは、需要にほんの少し足りない供給というバランスから生まれるものである。ブランドというものは、説明など必要なく、伝わってくるステータスである。何かを捨ててでもコアになるものを大切にしないとできない。ただひたすら「本質の追究」を続けていく。
レクサスにおいては、顧客満足度に平均点は使わない。5点満点の調査で、「大満足」と答えた人が何人いるか、何%かを見る。「やや満足」である4点以下は0点なのである。
母国の文化を背負ったブランドでない限り、ヨーロッパの人々は決して受け入れようとはしない。
7.リーダー
リーダーの役割は大きく2つある。1つは、人々のベクトルを合わせる方針の徹底であり、もう一つは主にその情熱とこだわりによって、人々のエネルギーレベルを底上げすることである。使命感や夢、ロマンなどによって、人々を高揚させることも重要になる。
会議に出席する人間をきっちり選ぶことは重要である。外部の変化に対応できるように、組織がその中に異分子を含めた様々な多様度を内包している必要がある。その落としどころを探り、収束に持っていくためにはリーダーの力量が必要になる。
8.見える化
トヨタでは、どの業務に就いている者も自分の仕事が誰からも見えるようにし、問題を発見した場合も誰にでも見えるようにする責任がある。しかも、解決は本人の責任ではなく関係する人々ないしチーム全員の責任であるとしている。
9.トヨタの5つの組織能力
①人々のつながりによって仕事を成し遂げる能力
②創造と革新を人々のつながりを行き来させる活動の中から形成する能力
③リーダーの洞察と情熱で人々のつながりのエネルギーレベルを上げる能力
④誰と誰とがつながると仕事が成し遂げられるかを誰もが考える能力
⑤誰がつながっても仕事が成し遂げられるような問題解決の共通基盤を持つ能力
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