のぼるくんの世界

のぼる君の歯科知識

日本は世界5位の農業大国

2010年12月29日(水)


大嘘だらけの食糧自給率
浅川芳裕著
講談社+α新書
2010年2月20日発行
 自給率向上を目指すことが本当に日本農業の将来に光をもたらし、日本国民かを幸せにすることなのか。別の選択肢はないのか。同時に、農業を語る時の2つの疑問にも答える。
 A.もっと農業を保護しないと日本人の食料は大変なことになる
 B.構造的な問題を解決すれば、成長する可能性を持っている
この機会に農業を、農水省を考えよう。

1.農業は世界の成長産業
 日本農業が抱える本当の課題は、生産者側ではなく顧客が高齢化し、人口が減ることにある。しかし農業は、世界人類という広い顧客対象を持っている。つまり世界人口が増えるのに比例して顧客数が増加しているわけだ。日本の農業生産額は約8兆円に対し、世界の輸出マーケットは100兆円を超えている。市場が求めているものを作り、海外の顧客を開拓し、輸出を促進すれば道が開ける。
 国際的に生き残ろうと思ったら、生産性の低い作物を無理に底上げせず、生産性の高い分野を集中的に伸ばすべきだ。日本のようにマーケット評価の低い麦、大豆や、需要のない飼料米を税金で増産したところで、農業の成長にはつながらない。いたずらに国民の負担を増やすだけだ。

2.こんなに強い日本農業
 ①農業の国内生産額(2005年)国際連合食糧農業機関発表
 1位中国、2位米国1775億ドル、3位インド、4位ブラジル、5位日本826億ドル、6位フランス549億ドル、7位ロシア269億ドル、13位ドイツ379億ドル、17位オーストラリア259億ドル、18位英国184億ドル
 農業の実力を評価する世界標準は、マーケット規模であり、日本の国内農業生産額はおよそ8兆円。これは世界5位、先進国に限れば米国に次ぐ2位である。(農水省が発表)そして、農家の所得は世界6位である。
 ②ネギ(エシャロットを含む)の生産量が世界一の国は日本である。ホウレンソウは3位、ミカン類は4位、キャベツは5位、イチゴ、キュウリは6位など生産量は世界のトップレベルのものが少なくない。キウイフルーツも世界6位であり、米国の生産量を上回っている。生産能力の4割を減反しているコメは10位。減反開始前の1960年代は3位だった。リンゴが14位、ジャガイモでさえ22位と健闘している。日本の農産物総生産量は着実に増えている。

3.「世界最大の食糧輸入国」?
 ①農産物輸入額(2007年)
米国747億ドル、ドイツ703億ドル、英国535億ドル、日本460億ドル、フランス445億ドル
 ②国民一人あたりの輸入額の試算
英国880ドル、ドイツ851ドル、フランス722ドル、日本360ドル、米国244ドル
 ③国民一人あたりの輸入量
ドイツ660kg、英国555kg、フランス548kg、日本427kg、米国177kg

4.自給率のからくり
 カロリーベース食糧自給率という指標を国策に使っているのは、世界で日本しかない。自給率を計算している国も日本だけだ。主要先進国の自給率は、各国が計算したものではなく農水省の官僚が導き出したもの(計算根拠は未公開)。世界で誰も使っていないカロリーベースの自給率を農水省は英語でも発表している。しかし、英国政府は、「自給率を高めるために、特定作物の価格を人工的に上昇・維持させる政策は、農業の質を低下させる一方、膨大な在庫を生み出す」と主張している。
 自給率には「カロリーベース」と「生産額ベース」の2つの指標がある。自給率41%は、カロリーベースの数字だ。野菜の重量換算自給率は80%を越えている。野菜はカロリーが全般に低いため、全供給量に占める国産カロリー比率は3%、摂取カロリーで1%を占めるのみである。

カロリーベース総合食糧自給率
=(国産+輸出)供給カロリー÷人口/(国産+輸入-輸出)供給カロリー÷人口

 ①計算方法の問題点
 分母の供給カロリーは実際に摂取しているものではなく、廃棄されたものなども含まれている。摂取カロリーの減少とは対照的に、供給カロリーが増加している背景には、年間廃棄量1900万トンという現実がある。分子の国産供給カロリーには販売していない自家消費やお裾分けと家庭菜園は含まれない。また、国産の飼料で育てられた家畜のみが自給率の対象となる。

 ②自給率の歴史
1965年に生産額ベースの自給率が発表された。
1983年にカロリーベースも併記されるようになる
 この年は、農産物自由貿易化交渉(牛肉、オレンジ交渉)の年
1995年に生産額ベースが突如消える
 この年はウルグアイラウンドにおける米の実質的な関税化合意の後
近年再び生産額ベースが復活する

5.自給率と食料安全保障を混同
 国際社会に共通する食料安保の考え方は、「国民が健康な生活を送るための最低限の栄養を備えているか」「貧困層が買える価格で供給できるか」「不慮の災害時でも食料を安全に供給できるか」の三点である。

 ①自給率と食料安保には何の関連もない
 自給率100%のコメが1993年に不足したのは、輸入が禁止されていたからである。食料安保とはリスク・マネジメントの課題であって、自給の問題ではない。真の食料安保には、入手先の多様化と発達した貿易関係こそが大切である。

 ②オランダの自給率
 オランダの自給率が激減したのは、カロリーの高い穀物の生産を減らし、カロリーの低い野菜を増産したからだ。しかし、オランダ政府も、農家も国民も自給率が下がったことを心配している人は誰もいない。それもそのはず、オランダの自給率を「発明」したのは、日本の農水省だから。

6.農家の減少
 農家の減少率を過去10年間で比較すると、日本は22%、EU(15カ国)は21%、ドイツは32%、オランダは29%、フランスは23%、イタリアは21%となり、日本だけが突出しているわけではない。
 農家が人口に占める割合は、英国0.8%、米国0.9%、ドイツ1.0%に対して、日本は1.6%と突出して高い。
 実際、売り上げ1000万円以上の農家はわずか7%の14万戸。しかし、彼らが全農業生産額8兆円のうちの6割を産出している。さらに、3000万円以上の農家は1.5%の3万戸あり、国内生産額の30%を占め、過去5年間で150%成長している。少数の農家だけでも日本国民の需要を十分に賄いきれるほど、農場の経営は進歩を遂げているのである。
 一方、売り上げ100万円以下の農家が全農業者の6割、120万戸存在し、国内生産額にわずか5%しか貢献していない。過去5年間の成長率はマイナス130%で、大半が赤字である。といっても、彼らは他の仕事で稼いだお金を農業に使っている大規模家庭菜園層である。

7.戸別所得補償制度
 「戸別所得補償制度」は、農業で生計を立てようとしていない、週末を利用して自家用やお裾分け用に耕作する疑似農家に1兆円の税金が配分される。所得補償は売れない農作物を大量に生産させ、在庫の山を築くのみである。所得補償によって土地の生産力に比例しない価格が形成され、高い地代はコストを引き上げ、黒字農家までを赤字に陥らせる。

8.農産物輸出は検疫戦争
 農業生産に損害を与える病虫害の侵入をお互い防止する国境措置は、当然認められている。しかし、必要以上の条件を設けることが横行している。日本米は中国に輸出する際に、「特別な燻蒸をしなければならない」と中国側の過剰な検疫要求に合意してしまった。いかに難癖を付けられても、科学的に検証していくのが検疫担当官の仕事だ。その世界を相手にした交渉に携われる職員は、農水省に10人しかおらず、実際の輸出検疫の作業スタッフも人手不足で悲鳴を上げている。

9.農業は経験の継承産業
 「企業を農業に参入させれば、遅れている農業がうまくいく」という論は見誤っている。「農業に参入した企業の9割が赤字」という現実もうなずける。農業は経験の継承産業であり、人並みに稼げるようになるまでにはノウハウの蓄積がいる。専業農家に生まれた若者が意欲を持って農業をしている。しかも、20代の農業経営者、経営幹部は全国に3万6000人もいる。2007年だけで5000人強も新規参入している。

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