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TPP問題を考える

2012年01月19日(木)


講師:横山壽一 金沢大学人間社会学域地域創造学類教授(経済学)
日時:2012年1月19日(木)午後7時30分から午後9時まで
場所:保険医協会会議室

 TPPの基本的なことを学んだ。確かなことは、2015年までに全ての貿易の関税をゼロとし、自由競争の妨げとなる非関税障壁を撤廃することを目標としていることと、例外を認めないこと。また、拡大交渉会合へ参加しないと詳細な内容は不明とされている。
 FTAやEPAではなく、中国、韓国、インドなど工業製品の輸出国が参加しない「TPP」という枠組みに、なぜ農産品輸出国のアメリカは日本を強引に誘うのか。安い原材料が大量に手に入り、それを利用した競争力のある加工品が生まれ、成長が持続可能になると言う。しかし、日本国民は幸せになれるだろうか。TPPに参加して経済的な国境をなくすことは、お金や物が1カ所に転がりやすくなり、長い歴史を持った地域文化の多様性が失われていかないだろうか。ユーロに統合したヨーロッパの苦難と同じ道も危惧される。将来の成長戦略を模索しているアメリカにどこまでも追随するのか。

メモ
1.TPPとは
ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A4%AA%E5%B9%B3%E6%B4%8B%E6%88%A6%E7%95%A5%E7%9A%84%E7%B5%8C%E6%B8%88%E9%80%A3%E6%90%BA%E5%8D%94%E5%AE%9A
 参考に 中野剛志著 TPP亡国論 (集英社新書)

 ・正式名称 Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement
      環太平洋戦略的経済連携協定
 ・環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定 (EPA)
 ・協定には「原協定」と「拡大交渉中の協定」がある
   原協定は、2005年6月3日にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド    の4か国間で調印し、2006年5月28日に発効した協定(P4協定) 【資料1】
   拡大交渉中の協定:2010年3月から始まった拡大交渉会議で議論されている協定
        アメリカ、オーストラリア、ベトナム、ペルーが参加、10月からマレーシア
 ・日本も2011年11月APECで野田総理が「交渉参加に向けて関係国との
     協議に入る」と表明したが、拡大交渉会合への参加は許可されていない
     (拡大交渉会合に参加するためには、9カ国すべての承諾が必要)
   第10回(2011年11月)での拡大交渉会合で確認された
     (オブザーバー参加は認めない、参加前に条文案を共有しない、
      交渉会合中に参加させるかどうかの協議は行わない)
 ・拡大交渉の現局面
   アメリカが参加したことで性格が変わった
   拡大交渉会合では、24の作業部会を設けている 【資料2】
   2011年11月アメリカAPECの会合で、交渉は大枠合意にとどまり、
    「2012年内の最終妥結を目指す」と先延ばしされている。

 予備知識として
貿易などに関わる制度・仕組み
 ①WTO(世界貿易機関)
   ・150カ国以上の国と地域が参加する、自由貿易の推進を目指す国際機関
      ・各国一律で融通が利かず、ルールがほとんど決まらない
   ・国内産業への補助金に対する削減ルール
   ・食料安全保障や環境問題等にも一定の配慮
 ②FTA(自由貿易協定)
   ・二国間あるいは複数国間で関税を撤廃する協定
   ・各国の事情を反映した柔軟なルール作りが可能
   ・相手国を選べる
   ・韓国は、米韓FTAで合意、
     2011年11月16日に、TPPは国益にならないとして正式に不参加を表明。
 ③EPA(経済連携協定)
   ・FTAの一種、関税撤廃だけでなく、
     規制や制度の改正なども含む二国間あるいは複数国間の協定
   ・相手国への技術支援などを引き替えに、重要品目を除外する
   ・日本が積極的に行っている(12の国と締結)
www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fta/
 ④ TPP
   ・EPAの一種
   ・関税の即時撤廃を求め、例外を認めない究極の自由貿易協定
     (原協定でも実際には時間をかけている)
   ・非関税障壁も対象

2.TPPの背景・要因・意図・思惑
 ①原加盟国4カ国 シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド
   ・小国で、圧倒的に対外貿易依存度が高い国
   ・関税で守るべき国内産業がない

 ②アメリカ
   ・リーマンショック以降、旺盛な消費で支えてきた成長が行き詰まり、
     競争力のある農産物の輸出倍加という「国家輸出戦略」のために
     日本に市場開放を迫る意図
     (中国や韓国は参加しないので、倍加のためには日本市場を入れるしかない)
   ・製造業を自国にこだわらない多国籍企業
 ③日本
   ・アメリカ追随
   ・財界からの強力な圧力

3.TPP参加に対する推進論者の論点とその検証
 ①TPP不参加は鎖国
   ・WTOに加盟、EPAの締結国は12
   ・全品目の関税率はアメリカより低い(農産物に限定しても)
   ・食糧自給率4割(6割は輸入)
 ②アジアの成長を取り込む
   ・アジアの成長を牽引する中国、韓国、インドは参加していない
   ・日米でGDPの9割を占める(実質的には日米のFTA)
     TPP参加国+日本でそれぞれの国のGDP割合。
itokonnyaku.tumblr.com/post/2682016721/tpp-gdp
   ・むしろ日本は、自国の利益を犠牲にして参加国に利益を与える役回り?
   ・「日本経済は外需依存」の嘘
members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_02.html
 ③TPPがこれからの環太平洋地域の実質的な基本ルールになる
   ・中国、韓国(インド)が加わらない協定は一般的になり得ない
   ・中国は自国が有利になるように為替を操作しているから参加はあり得ない
   ・韓国は米韓FTAを選択
 ④ルール作りに主導権を発揮する
   ・TPPルールは原協定がベース、交渉はアメリカ主導になることが必至
   ・主導権を握るためには多数派工作が必要
     (日本は工業製品輸出国、その他は一次産品輸出国)
     (他国から労働力や農産物の輸入を期待されている)
 ⑤例外措置を求めて自国の利益を守る
   ・例外措置を基本的に認めないのがTPPの特徴
   ・原加盟国は例外を認めないことを強調している

【資料1】
原協定の構成
序文 (PREAMBLE)
第1章 設立条項 (INITIAL PROVISIONS)
第2章 一般的定義 (GENERAL DEFINITIONS)
第3章 物品の貿易 (TRADE IN GOODS)
第4章 原産地規則 (RULES OF ORIGIN)
第5章 税関手続き (CUSTOMS PROCEDURES)
第6章 貿易救済措置 (TRADE REMEDIES)
第7章 衛生植物検疫措置 (SANITARY AND PHYTOSANITARY MEASURES)
第8章 貿易の技術的障害 (TECHNICAL BARRIERS TO TRADE)
第9章 競争政策 (COMPETITION POLICY)
第10章 知的財産 (INTELLECTUAL PROPERTY)
第11章 政府調達 (GOVERNMENT PROCUREMENT)
第12章 サービス貿易 (TRADE IN SERVICES)
第13章 一時的入国 (TEMPORARY ENTRY)
第14章 透明性 (TRANSPARENCY)
第15章 紛争解決 (DISPUTE SETTLEMENT)
第16章 戦略的連携 (STRATEGIC PARTNERSHIP)
第17章 行政および制度条項 (ADMINISTRATIVE AND INSTITUTIONAL PROVISIONS)
第18章 一般的条項 (GENERAL PROVISIONS)
第19章 一般的例外 (GENERAL EXCEPTIONS)
第20章 最終規定 (FINAL PROVISIONS)

【資料2】
作業部会
拡大交渉会合では、以下の24の作業部会が設けられている。
 1.首席交渉官会議
 2.物品市場アクセス(農業)
 3.物品市場アクセス(繊維・衣料品)
 4.物品市場アクセス(工業)
 5.原産地規制
 6.貿易円滑化
 7.SPS(衛生植物検疫)
 8.TBT(貿易の技術的障害)
 9.貿易救済(セーフガード等)
 10.政府調達
 11.知的財産
 12.競争政策
 13.サービス(越境サービス)
 14.サービス(商用関係者の移動)
 15.サービス(金融サービス)
 16.サービス(電気通信サービス)
 17.電子商取引
 18.投資
 19.環境
 20.労働
 21.制度的事項
 22.紛争解決
 23.協力
 24.横断的事項特別部会

【資料3】
TPP推進派
 民主党の主な議員
  野田佳彦、藤村修、菅直人、輿石東、前原誠司、仙谷由人、藤末健三
 自民党の主な議員
  中川秀直、川口順子、河野太郎、石破茂、小泉進次郎
 みんなの党(川田龍平を除く)

TPP反対・慎重派
 民主党の主な議員
  山田正彦、渡部恒三、鳩山由紀夫、田中真紀子、中井洽、福田衣里子
 自民党の主な議員
  森喜朗、町村信孝、大島理森、加藤紘一、稲田朋美、江藤拓
 公明党、共産党、社民党

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