名誉院長ブログ のぼるくんの世界

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沈みゆく大国 アメリカ

2017年08月10日(木)


img939〈逃げ切れ! 日本の医療〉
堤 未果著
集英社新書
740円
2015年5月20日発行
参考に
 堤 未果 講演会
kojima-dental-office.net/blog/20160729-2321#more-2321

 アメリカには国家に危機的状況をもたらすような外国企業の参入に対しては、大統領権限で阻止できるルール(エクソン・フロリオ条項)がある。日本にはこうした歯止めがない。アメリカは絶対に不利な交渉はしない。
 アメリカが喉から手が出るほど欲しい最大のターゲットは日本の医療分野だろう。以下の規制を取っ払いたい。
 ・アメリカの医療保険会社の参入を阻む「国民皆保険制度」
 ・大手の医療・介護法人チェーンが日本に入れない医療法
     (医療法人を株式会社が経営することを禁じる法律)
 ・日本政府が持つ薬価交渉権
     (アメリカでは、薬の値段は製薬会社の言い値で決められる)

1.「国民皆保険」を知らない日本人
 1922年。第一次大戦後の日本で、労働者保護のため「健康保険法」が作られた。さらに1938年、「国民健康保険法」が成立。兵隊として戦地に送る農民たちには、しっかり体力をつけてもらわなければならない。国策として掲げられた「健兵健民」のスローガン。「皆兵」の文字が「皆保」という名前を生み出した。戦争のために急いで作られた制度は、1945年の敗戦とともに国保組合の多くが運営不能に陥る。
 そこで、1948年に保険者を組合から市町村に変え、その地区の世帯主と世帯全員に加入を義務づけた。1957年に厚生省が「国民皆保険計画」を作り始め、「1961年4月1日までに全国民が強制加入する公的医療保険を実施する」という法案が提出される。1958年12月に新たな国民健康保険法が国会で成立。国民皆保険という宝を手に入れた。
 「皆保険体制(国民全員が公的保険に加入)」
 「フリーアクセス(いつでもどこでも平等に医療を受けられる」
 「現物支給(保険証一枚あれば、窓口負担だけですぐ医療を受けられる)」
 国民健康保険では、自己負担額は初め治療費の半分だったが、国民の熱心な運動によって3割に引き下げられた。さらに1973年には、「社会保障拡充」をうたう田中角栄総理によって、老人医療費が100%無料になる。

2.世界が嫉妬する「高額療養費制度」
 自分で毎月負担する医療費の上限が決まっていて、その差額を後から保険者が払い戻してくれる。介護の場合も同じ制度がある。自己負担額には所得別の限度額が設定されている。医療と介護両方の自己負担額を合計して申請すれば差額を戻してくれる。アメリカには公的な介護保険等というもの自体が存在しない。だがどんなに価値ある制度でも、多くの人にとってそれが当たり前になって、無関心に空気のごとく扱われるようになれば、外から奪うのはたやすくなる。

3.MOSS協議
 中曽根総理は、レーガンに続き「小さな政府」路線にかじを切る。国鉄や電電公社、専売公社、日本航空等を次々に民営化、金融を自由化し、国の社会保障への補助金を減らし始める。
 1985年。中曽根・レーガン合意のもとに日米間で「MOSS協議(市場志向型分野別協議」が始まった。これによって日本は、電気通信・医薬品と医療機器・エレクトロニクス・林産物の四分野に関する製造または輸入の承認・許可・価格設定の三つを、今後は全て事前にアメリカに相談しなければならなくなった。
 80年代に輸出超過だった、高技術を誇る日本の医薬品と医療機器は、90年代に逆転する。ここから外国製品の輸入が猛スピードで増えていく。日本はこの不平等政策によって海外の薬や医療機器を3倍も4倍も高い値段で買わされている。技術立国であるにもかかわらず日本はずっと新薬や医療機器開発を政治的に押さえつけられてきた
 MOSS協議以降の流れが今日の日本の医療崩壊の始まりであったことを、日本人は今こそ知るべきだろう。

4.経済財政諮問会議
 様々な意見を聞いていると、決定までに時間がかかる。そこで政府は、2001年1月、国家予算や規模、医療費など経済全般に関わる大きな決定を、もっとシンプルかつスピーディに進める方法として「経済財政諮問会議」という組織を誕生させる。総理自らが求める意見を、総理が議長を務める諮問会議で議論して、結論を出す。次に、総理が議長を務める閣議に出すと自動的に決定、晴れて「政府の政策」となる仕組みだ。メンバーは、内閣官房長官、日銀総裁、経済財政担当相と関係閣僚、それに経済学者と財界人2名ずつ、計4名の民間人。
 これで政府にとっては、うるさい野党や労働組合、国民の反対に邪魔されることなく、物事をスムーズに進められる環境が手に入った。例えば、医療についてのルールを変えようとする時も、会議の席に医療関係者は一人もいない。医療予算を話し合う経済諮問会議にすら、医師は一人もいない。
 本来は総理に助言するだけのはずだったが、今ではこの諮問会議の決定を受けてから政策が決められ、政策を変える時も、諮問会議で議論してから変更される。見事に政策決定機関になってしまった。安倍総理は、念には念を入れ「国家戦略特区諮問会議」のメンバーから、厚労大臣と農水大臣をきっちり外した。

5.日本の国民健康保険は社会保険
 中央大学法学部宮本太郎教授によれば、日本の国民健康保険は、保険という名前が付いていても、アメリカの民間保険とは全く性質が違う。全国民が入れる条件を確保することが非常に重要。宮本教授の言うように、国民皆保険の根幹が保険ではなく社会保険であるならば、厚生労働省のホームページに出てくる「助け合い」という言葉は矛盾する。財源がないから皆で助け合い、お金を集めましょうという方針は、憲法25条に沿って弱い立場のものをすくい上げるという国の責任をぼやけしてしまう。
 保険料を滞納した高齢者や障害者、低所得者などから保険証を取り上げ、窓口負担10割にするのも、皆保険制度の目的と成り立ちからすると、相反する流れのひとつだろう。

6.「高齢化が医療を破綻させる」はウソ
 日本医師会が調査したデータを見ると、高齢者とそれ以外の患者では治療費は変わらない。もちろん年をとれば体のあちこちに故障がでて医者にかかる頻度も薬の量も増える。それは自然増の範囲。医療費を押し上げているのは医療技術の進歩と新薬。医療技術の進歩で昔より寿命が延びているのだから、高齢化に従って医療費が伸びているのは当たり前。日本は、医療費が諸外国に比べてもかなり低く、さらに患者の自己負担率はとても高い。
 2008年4月「後期高齢者医療制度」。日本政府はついに高齢者を切り捨てた。65歳から74歳の障害者と75歳以上の人が加入していた国保や健保から強制的に外された。それまで扶養家族だった人も、これからは全員個人で保険料を払わなければならない。年金月額15000円以上の人はそこから強制的に天引き、それ以下は直接納付する。1年以上滞納すると保険証を取り上げられて窓口負担が10割になってしまう。そして、未納分を払わない限り保険証は返してもらえない。
 弱い立場の国民の、いのちと健康は国が保障するという、「国民皆保険制度」。その根っこにある憲法25条はすっかり忘れられ、収入の少ない高齢者の保険料を減らす制度も2017年までに廃止、彼らの負担を1.25倍から10倍に増やすことになった。さらに2015年4月からは、要支援1・2の給付から訪問介護と通所介護が外されてしまう。

7.介護職員が辞める、じゃ外国人で
 資格を持っている介護福祉士の約半数が介護現場で働いていない最大の理由は、低賃金、看護師のような夜勤時間制限すらない過酷な勤務体系、そして激務の中での人間関係。
 介護職員給与を月1万円2000円上げるための予算をつけたものの、介護報酬切り下げで事業所自体の経営は悪化するため、給与の代わりにボーナスは減らされてゆくだろう。
 法務省は、日本で介護福祉士の国家資格を取った外国人が、そのまま日本で介護士として長期間働ける法整備をすることを決めた。2016年度から、「外国人技能実習制度」を介護分野にまで広げた。この制度は途上国の学生に日本で技術を学ばせる国際貢献という建前ですが、実際はブラック企業化してしまっている。中小企業が低賃金で使える労働力として扱われている。そもそも労働者を保護する制度として作られていない。ここでは、憲法も労働法も機能していない
 人件費の削減には、質の低下という代償が付いてくる。

8.アメリカの超高速な新薬承認のウラ
 アメリカは、規制緩和によって90年代になると、先進国一安全審査に時間をかける国から先進国位置承認スピードの速い国になっていた。1992年には、薬の安全審査にかかる費用を制約会社がFDA(米国食品医薬品局)に直接支払う「処方薬審査料法」が議会を通過。当初、審査料は、薬一品目につき31万ドル(3100万円)だった。その後、法律が見直される毎に跳ね上がり、ついに年間総額2億6000万ドル(260億円)にまで膨れあがった。FDAの医薬品評価研究センターの年間予算の半分以上を製薬企業の審査料が占めるようになったことで、審査にかかる時間はますます短縮されていった。
 2002年5月23日のワシントンポストによると、この法律ができてから10年で副作用で大量の死者を出し販売中止となった薬が、9品目でたという。だが、審査料の支出を引いても十分すぎる利益を回収した製薬業界に、利益相反を批判する声は届かなかった。 2014年11月6日、イギリスのBBCニュースは、製薬業界の利益率が他の業界に比べて飛び抜けて高いこと、世界トップの製薬企業群が開発費よりマーケティングに費用を投じている事実を指摘した。巨大化した製薬業界がアメリカ政府に対してもつ影響力の大きさは、私たちの想像を遙かに超えている。日本のように政府が薬価交渉権を持たないアメリカでは、薬の値段は製薬会社の言い値で決められる。
 日本はアメリカのような医療先進国に比べ、新薬の承認スピードが遅いと批判されている。だが、実際は、現在の日本の医薬品承認スピードはヨーロッパ諸国と同程度だ。承認スピード世界一のアメリカに合わせるメリットとデメリットは慎重に検証されるべきだろう。

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