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センス・オブ・ワンダーを捜して

2011年12月08日(木)


センス・オブ・ワンダーを捜して生命のささやきに耳を澄ます
福岡伸一 阿川佐和子著
大和書房
2011年11月1日発行
1400円
 人間にとって子ども時代とは、生きるとは何なのかを深く考えさせられる1冊である。そして、機械論的にこだわらず動的平衡も視野に入れて患者さんと向き合いたいと思う。
 また、2人の対談からインタビューの秘訣も学んだ。質問をひとつだけ用意する。その答えをじっくり聞き、答えの中に次の質問を見つける。
 動的平衡
kojima-dental-office.net/blog/20180814-10323#more-10323

1.ネオテニー(幼形成熟)という生物学用語
 外見的な形態や行動パターンに、幼生や幼体の特徴を残したまま、動物が成熟することを指す言葉だ。ウーパールーパーが典型例である。両生類の最も大きな変化は、エラ呼吸が肺呼吸に切り替わることだ。ウーパールーパーは特殊だ。エラ呼吸が肺呼吸に切り替わらない。そのかわり陸に上がることなく、一生水の中で過ごす。幼体から成体に身体を変化させる時に働くホルモンのタイミングが滞るようなことが起こったのかもしれない。子どもの期間が長く、子どもの特徴を残したまま大人になる。

2.ヒトはサルのネオテニーとして進化した
 とても興味深い仮説である。ヒトとチンパンジーの遺伝子を比較すると98%以上が相同で、ほとんど差がない。遺伝子が働くタイミングの差だ。特に脳でスイッチがオンになる一群の遺伝子は、チンパンジーよりヒトで、オンのタイミングが遅れる傾向が強い。事実、ヒトはチンパンジーの幼い時に似ている。体毛が少なく、顔も扁平だ。幼さを残したまま、成体になる。
 子どもの期間が伸びるということは、学びと習熟の時間がたっぷり得られることになる。一方で、性成熟が遅く攻撃性が低いということも、知能の発達に手を貸すことになった。私たち人間は、かけがえのない子ども時代をことさら長引かせるように予め与えられている。

3.子ども時代は不思議の入口
 児童文学者の松岡享子さんは「子どもの感受性は大人になってからでは取り返しが付かない」、石井桃子さんは「子ども達よ。子ども時代にしっかりと楽しんでください。大人になってから、老人になってから、あなたを支えてくれるのは子ども時代の『あなた』です」、『センス・オブ・ワンダー』を書いたレイチェル・カーソンは「子ども達の世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激に満ちあふれています。残念なことに、私たちの多くは大人になる前に澄み切った洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直感力を鈍らせ、ある時は全く失ってしまいます」

4.センス・オブ・ワンダー
 『センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性』とは、バランスに気づくこと。外の世界がどんなに変化しても、一番大切なことへのヒントは自分の中に折りたたまれている。子ども時代に「すごい!」とか「きれい!」とか「不思議!?」「どうして!?」と思うことに出会う、それが成長するきっかけになる。まず感動することが大事。
 「知る」ことは『感じる』ことの半分も重要じゃない。子ども達の成長過程で出会う知識や知恵が種子だとしたら、情緒や感受性はその種子を育む肥沃な土壌のようなもので、子ども時代はその土壌を耕す時だ。
 昔の子どもには本を閉じてからボーッとする時間があったけど、今の子ども達は次のスケジュールが入っているから、脳みそに残るのは知識と情報でしかなくなる。そこから新しい引き出しを作る時間がない。読書が大事なのは想像力の余白を残しているからだ。
 子どもの頃に得た、生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー』は、やがて大人になるとやってくる倦怠や幻滅、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になる。今の人たちには、多角的な視点やバランスみたいなものが余りにも欠けている。

5.「ダイナミック・ステート」  動的平衡の発見
 脳細胞とか心臓の細胞みたいに一度できたら分裂しない細胞でも、細胞の中身はものすごい速度で入れ替わっているし、そこにあるDNAも端から分解されながらまた合成されてこの形を保っているに過ぎなくて、入れ替わっている。半年から1年も経てば私たちは分子レベルでは全く別人になってしまう。けれども、一方では、私は私という状態を保っている。もし何か不足があればそれを埋め合わせるように動くし、過剰があればそれをできるだけ少なくするように動く。
 シェーンハイマーは、絶え間なく交換され変化しているにもかかわらず、全体として恒常性が保たれていることを「ダイナミック・ステート(動的な状態)」と呼んだ。これを『動的平衡』と訳した。
 その原理はまだ誰も説明できていない。多田富雄さんは免疫系はどうしてそれだけ統合して自分と敵を認識できるのかを考えた人だけど、志半ばにして亡くなった。私は引き継いでもうちょっと考えられないかなと思っている。

6.機械論的な考え方
 本当は世界は繋がっているのに、私たちは常に部分を切り取ってその中だけでものを考えがちになってしまっている。人間は遺伝子の端から端まで知り尽くしたのに、全体は分かってない。今の科学者達は細分化されて、自分の専門分野しか見えていない。分けて部品化して機械論的に考えると、個々のものに価値が生まれて商品化されていく。
 機械論的な考え方が資本主義社会に馴染むから、動的平衡の考えが主流にならない。メカニズムとして体を考えるから医学が成り立つし、薬を開発できるし、操作的な最先端医療が可能になってそれを受けられる人が出てくる。
 動的平衡の立場に立つとアンチエイジングは意味がないし、薬もだましだまし使うべきだとか、飲まずに済むならそれが一番だとかいうふうにしか言えない。そうすると、儲けられる人がいなくなる。

7.生命とは何か
 生物学者としての私の問いは、「生命とは何か」を言い表す言葉を探すということに尽きると思う。生命をものとしてみれば部品の集合体に過ぎないが、生命を現象として捉えるとそれは動的な平衡となる。死の前後で部品の増減はない。では一体何が変わるのか。動的平衡がこと切れる、と言うことだ。
 人間の体からある機能を切り離してくることはできないので、それを機能ごとに分けている現代医療はどうなのかなと、動的平衡の視点から問い直すべきではないかと思う。
 資本主義社会はどうしたってメカニズムとして世界をとらえるほうに行かざるを得ない。それでもやっぱり科学者の役割は諦めずに理念を言い続けることなので、私は世界は動的平衡であると言い続けようと思っている。

8.「脳死」の問題
 脳が死ねばその体は死んだとみなせるというのが脳死だ。脳死に賛成する人は脳が始まる時が人としての始まりであると考える、そうすれば脳が死んだ時を人の死とする脳死と整合性も取れると言う。シナプスが脳細胞を繋ぎ合わせて脳の形ができて脳波が生まれて意識が立ち上がる頃が、おそらく脳が生まれる頃だ。胎児が脳波を生み出すのは受精してから27週目くらい。今妊娠中絶は22週未満までできるから、それよりあとだ。脳が始まる以前は単なる細胞の塊とみなせるからそこから再生医療のためのES細胞を取り出したり、組織を取り出しても殺人に当たらない。機械論的現代医学はどんどん推進されている。先端医療は私たちの寿命の両側から縮めている。

9.文明と文化の相克
 文明は人間が自分の外側に作りだした仕組みであり、私たちを豊かにし、便利にし、快適にするものとして作られた。それは常に更新されるもので、効率と雇用とお金を生み出すはずだった。
 文化というのは人間が自分たちの内部に育ててきた仕組み。日本人は、人間至上主義より八百万の神に近い文化があり、DNAの上には乗っていないけれども内面にあって人から人へ引き継がれてきたもので、外部で引き継がれてきた文明に対向しうるものだ。

10.不可能なこともあると教えるのが本当の科学
 何かを燃やして二酸化炭素ができて、それを植物が吸って炭水化物になり、その炭水化物が長い年月で石油や石炭になるというサイクルの中で人間の等身大の利用がうまく回っていたのに、原子核反応はそれと別のところで回るからゴミも自然の循環に入らない。コントロールできない、放出したゴミを捨てる場所のないものは使っちゃいけない。

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