小島歯科医院 名誉院長ブログ

乳幼児期に必要な口腔機能の発達と食との関連(2)

2015年07月26日(日)


元開富士雄先生講演Ⅰ  10:05~10:55
 演題  「保育園における食育計画の実践」
 講師  社会福祉法人 小立野善隣館愛児園 栄養士 松平美穂先生
講演Ⅱ  11:00~13:30
 演題  「小児の口腔機能発達の栄養行動発達への影響」
  講師  横浜市歯科医師会 横浜市青葉区開業 元開富士雄先生

石川県歯科医師会・石川県栄養士会連携事業 第六回研修会
日時   平成27年7月26日(日)10時~13時45分
場所   石川県地場産業振興センター本館2階 第1研修室
対象者  歯科医師・歯科衛生士・管理栄養士・栄養士
     母子保健に関わるすべての職種の皆様
主催   石川県歯科医師会・石川県栄養士会

 参考に 乳幼児期に必要な口腔機能の発達と食との関連(1)
kojima-dental-office.net/20150510-1156

講演会メモ
講演Ⅰ 保育園における食育計画の実践
A.食育で一番大切なのは、楽しく食べる子どもを育てること
   食を営む力の基礎を育てる
    スキルアップが目標ではない
 ①食事の時にお腹がすくリズムになる
 ②食べたいもの、好きなものが徐々に増えている
 ③上手に噛むことができる(丸飲みしていない) 
 ④大人と一緒に食べたいと思える
 ⑤食事づくり、準備にかかわる
 ⑥食べ物を話題にする
 ⑦年齢相応の食具が使え、食事のマナーが身に付いている

B.食育計画の実践の要点
 1.子どもに対して
  ①生活全体を見直す
   ・家での生活を聞き取り、生活リズムに合わせた食事時間を決める
  ②食べたいもの、好きなものを増やす
   ・嫌いな理由に気づく
     噛めない、飲み込めない
     嫌な記憶、お腹が空いていない
     見た目、食感、味、匂い
     口内アレルギー(いがいがする)
  ③食事の質にこだわる
     毎日の食事は普通でよい。ごちそうの日が時々あるから楽しみが生まれる
  ④本物体験で食につなげる
  ⑤食べ物に関心、興味を持つことが大切
 2.保護者に対して
  ①関係づくり
     食の問題行動に対して指摘・注意するのではなく
     現場を見てもらう→周りとの比較→気づきを促す→相談を待つ
  ②グループ懇談
    他の保護者からのアドバイスや共感
 3.地域に対して
  連携や支援

講演Ⅱ  小児の口腔機能発達の栄養行動発達への影響
1.口から子育てを考える
 ①子育ての目標は「自立」
  ・身体自立 → 生活自立 → 社会自立
  ・身体自立 生理的な調整機能と感覚運動調整機能
  ・基本的生活習慣の「食事・睡眠・排泄・着衣着脱・清潔」を獲得が可能になった時、
     自分自身の世話ができるようになり、集団生活、知的教育(小学校)に入る

 ②食育とは食行動の自立
  ・「食べる」行為は
    食物の選択、獲得、調理、加工と、取り込み、咀嚼、嚥下、消化、吸収、、排泄
  ・前半の生体外は社会的「食行動」、生体内の過程は「栄養行動」
  ・食行動は家族の共通感覚と意識を育てる
    食文化と仲間との絆も育てる

 ③「食育」の前に「口育」を
  ・口の感覚が敏感でいつまでも随意運動が獲得できない子どもは、
    食物の取り込みから咀嚼や嚥下機能が獲得できない
  ・触覚に付随する味覚も嗅覚も鋭敏な状態では家族や仲間と同じものを食べられない  ・敏感な口を持つ子供は周囲との協調性だけでなく、
    学習や行動に対しても好き嫌いが出る
  ・こういう時代だからこそ「口を育てる」ことを実践して欲しい
  ・学校歯科保健の目標に「口の成長発達の観察」を加える
    子どもの背景を理解する

 ④スキンシップと話しかけ
  ・口腔の過敏さを除去し、スムーズな感覚入力と緊張のない筋肉運動をさせる
  ・子どもの身体を触りながら見つめ合い、優しく全身を触ることで
    情報が入りやすい体と心が形成される
   ところが、目を合わさない母親の行動は、過敏で情報が入りにくい子どもに、
    不信と不安を持たせ、母からの自立がなかなか進まないために、
    周囲に対する興味が無く社会への自立が遅れる

 ⑤全身発達は、「感覚運動系」によって機能獲得する
  ・感覚刺激に対して引き出される数々の運動動作を
    他の感覚と協調・統合することで随意的にスムーズな運動動作を獲得する

 ⑥誰もが上手く食べているというのは妄想
  ・口腔機能の遅れの原因は、感覚入力の不足
  ・歯科医にとっての食育とは
    子どもに口腔機能を速やかに獲得させるよう指導ならびに対処すること
  ・機能の発達の遅れが連鎖しながら機能的な悪循環へとつながり、
    口呼吸や幼児嚥下や構音障害その他の習癖や
    歯列と咬合の不正となつて姿を現し始める

2.消化のための口をつくる
 ①すう口から食べる口へ(脱感作のすすめ)
  ・食べるチカラを育てるためには、赤ちゃんの口を早く捨てるという意識が大切
  ・オッパイを飲んでいる赤ちゃんにとって口はただ通過するだけであって
    消化の場ではない
  ・離乳の時期になったら口に対する働きかけを増やし、
    勇気を持っていろいろなめさせることや
    歯が無くても口に指を入れて口の中を刺激させることが大切
  ・授乳中の陰圧になりやすい狭さ→口の中が広がる、小帯も下がる

 ②食行動の喚起
  ・生後6ヶ月を過ぎ、前歯が生え始めると原始反射もそのほとんどが消える
    口に入れるものすべてが異物であったのが全く感じなくなる
  ・手や目にするものすべてを口に入れることで食べるという行為が開始される
  ・食物の判別能力が全くないために非常に危険な時期
  ・母親を中心とした大人が食物とそうでないものを許可や制限をする
    子どもは環境からの食の選択を学習する

 ③口唇閉鎖は咀嚼開始の第一歩
  ・口唇閉鎖の獲得とは、上唇の伸展性を高めること
  ・授乳中は下唇のみが下顎と舌運動に連動して運動するが、
    上唇はほとんど動くことない
  ・下唇とオトガイを抑制させ上唇により捕食させるようなスプーンの運びが重要
  ・上唇を育てる ストロー→ コップ飲み、風船の膨らまし
  ・上唇が運動を獲得できなければ翻転し、口角が下垂した乳飲み口ができあがる
  ・口唇閉鎖の獲得が遅れると
    鼻呼吸が安定せずに口呼吸になりやすいということも考えられる

 ④舌運動の発達
  ・十分に引き出すには、舌の脱感作が重要
  ・哺乳のためのシャベル状の舌形態は、
    平坦で薄く側縁が盛り上がらない、舌尖形成できる舌へと変化させる
  ・舌背に乳首を固定するために舌の側縁が厚く舌尖が丸く舌背が凹んでいる

 ⑤咀嚼のための準備
  ・食塊形成には下あごと歯だけでなく
    下あごと舌の上下左右への自由な運動と唇や頬との協調運動が必要
    また、感覚が重要。
  ・咀嚼による食塊形成とは、手のひらの中で粘土を揉んでいるような作業
    粘土が気持ち悪くて触ることのできない過敏なを口では咀嚼できない
  ・不思議なことに、手と口の感覚は連携しているから、
    手で触れないものは食べられない
    ここに手づかみ食べの大切さがある

3.触覚の発達
 ①触覚は、二つの神経伝達ルートを持つ。
   原始感覚系の神経回路  生体の防御や危険回避を行う
          手の甲、毛のある皮膚
   識別感覚系の神経回路  対象物の大きさや性状や形などの識別を行う
     手のひら、毛のない皮膚
 ②原始感覚系 → 識別感覚系
  ・生まれてしばらくは、原始感覚系の神経回路が優位にあるために、
     子どもは不意に顔や身体を触られることを嫌がる。
     敏感な子は特に。
  ・危険回避が食べ物に現れると偏食になる。
    騙して食べさせるより、その過敏な身体や口を触り
    穏やかな刺激が入力するように作ることが有効
  ・どんなに敏感でも触れたまま動かさなければ感じなくなる
    ゆっくり動きを感じないような刺激を継続的に続ければ
    子どもの身体は識別系へと転換される
  ・何をしても痛い、原始感覚系の神経回路が優位なお子さんを診療する時も
    目を開けることから始める →識別系感覚系へ
     頬→口唇→舌と歯との間に指を入れる、止める→舌を触る

 ③もう一つの触覚「固有感覚」
  ・触覚
   「皮膚感覚」皮膚からの刺激を伝える
   「固有感覚」皮膚の内部(筋肉や関節や靱帯)からの刺激を伝える
  ・固有感覚はいくつもの筋肉の協調運動によりチカラ加減を作り出す
    自身の身体行動を操れない子どもは、
     姿勢を修正することもできないために動作が速く乱暴になりがち
     呼吸が浅くしゃべり声の強弱が付けられないので怒鳴るように感じられる
     機能の獲得の遅れによって日常行動にも影響し
      仲間との食い違いを生じさせドロップアウトを招くことにもなる

4.口の構造と食行動
 ①開咬
  ・食べこぼしが多い
  ・舌の突出癖と口唇閉鎖できないことによる
  ・好き嫌いは口の過敏さから来ることが多いので
    開咬や反対咬合のように舌癖と関係する
    過蓋咬合の舌は、敏感しすぎて流し込むために好き嫌いが無くなったりする

 ②過蓋咬合
  ・食事内容により食事時間が極端に早かったり遅かったりする
    早食いの習慣がついた子は肥満傾向
    遅い子は遊び食べが多く食事に集中せず痩せ型に
  ・厚みがある食べ物を好む。アメや氷を好んでガリガリ食べ続ける
  ・全体的に食事中の水分摂取が多い
  ・ぶどうパンや豆ご飯など混ざったものを嫌う。一品食べとして現れる
  ・筋肉の調整が利かないために動きが速くなりがちで、
    チカラ加減のない乱暴さを感じる。
     廊下をバタバタ歩く、怒鳴ったようにしゃべる、転びやすい、
     身体が硬い、指が上手く折れない、折り紙の端が合わない、
     枠からはみ出して字を書くのでいつも消しゴムは離せない
  ・筆圧が強い

参考に
元開富士雄
口腔機能を発揮させる機序とは
 -口腔機能の発達メカニズムに対する考慮事項-
          バイオプログレッシブ・スタディクラブ会誌No.24,2014

 口腔機能の獲得と発揮は、胎生期に始まる全身の運動発達の一部として考えられる。
触覚からの情報と意識覚醒とリズム運動が結びついて、口腔機能は巧妙で複雑な機能の切り換えや調整を半自動に行うように発達する。実際には、胎生期からの吸啜嚥下運動が発達する中で陰圧と陽圧の形成による口腔内圧の調整や呼吸との切り換え、舌運動の転換、軟口蓋の運動性向上による鼻咽腔閉鎖の切り換えなどを学習することで咀嚼嚥下と呼吸と発語という口腔機能は獲得・発揮されるようになる。
 感覚入力が困難で運動を協調させることが苦手な子どもは、数年後に口腔機能異常や習癖や歯列・咬合の問題を伴って現れる。健常者において口腔機能に質の差が存在することすら認識されていない。
 口腔機能とは、摂食(栄養摂取・水分摂取)、呼吸、発話(構音)、表情(感情の表出)そして感覚情報の入力であり、「生活機能」としての役割が強い。生活弱者である乳幼児や高齢者・要介護者が口腔機能の低下を招くことは、日常生活の自立に影響を与える。
 咀嚼運動と歩行運動は無意識的にも意識的にもできる半自動調節運動であることが似ている。しかし、歩行と咀嚼の大きな違いは運動を支える筋力にある。歩行は少しでも筋力が落ちれば廃用性萎縮による機能低下を招きやすいが、咀嚼は廃用性萎縮が生じにくい。さらに、口腔領域の関節は顎関節だけである。関節を持たないので運動の自由度が高い。複数の筋が拮抗しながらバランス良く活動する必要がある

1.胎児期から新生児期の運動発達
 ①胎児期の発達は自発的な胎動と触覚の出現によりなされる
  ・胎動は6~7週に始まり
  ・7週で口腔周囲に触覚が出現
  ・10週で原始反射的な運動が出現
  ・15週で出生時にみられる15種類の運動が獲得される
  ・口腔機能である吸啜・嚥下、呼吸も胎生期にほぼ完成する

 ②反射的な運動 → 随意運動
  ・胎児期から新生児期において反射的な運動が、
    やがて「意識」して動かす、いわゆる随意運動へと変化する
  ・反射的な運動
    口に手を持っていく運動
    音の方に首を向ける運動
  ・運動発達に意識が深く関わる
口腔機能の獲得に遅れや問題があるものに対して顎や舌の運動を行わせると
鏡を見ているにもかかわらず自分自身の体を意志通りに動かすことができない。
つまり、口腔機能が上手く発揮されない原因として意識下の運動学習が不足していることが想像される
 ③吸啜
  ・出生直後の吸啜は、無意識に反射のような運動
    乳汁が空になるか筋肉疲労で吸えなくなるまで吸啜する
  ・出生後1ヶ月を過ぎた頃から徐々に意識下の運動が混在する
    哺乳を中断し遊び飲みができるようになる。 「意識の目覚め」
  ・運動に「意識」が入ることにより機能を形成する力が格段に向上する

2.口腔機能発揮に必要なこと
 ①口腔咽頭感覚
  ・乳児は口腔や咽頭の感覚がきわめて敏感である。
  ・その敏感度は年齢や個人差が大きい。
  ・敏感な子は適応が悪いため、その後の口腔機能の獲得に大きな影響を与える。
触覚は、「触られる」感覚ではなく、「触る」という能動的な感覚機能であることを忘れてはならない。だからこそ、乳児にとって玩具舐めや指しゃぶりは触覚を活性化させる重要な行為といえる。口腔咽頭感覚が敏感な子どもに行う脱感作マッサージや機能訓練は、あくまで自分で自分の身体を触ることができるようにするためのものであることを認識することが必要
 ②舐め回し
  ・舐め回しは、口腔機能の発揮のために必要
  ・1歳過ぎてもおしゃぶりや玩具なめをしない子は吸い食べのような咀嚼型になる
    口腔咽頭感覚の拒否が異常に強く、離乳食への移行も難しいことが多い
  ・親指で指しゃぶり  
     人差し指・中指 → リストカットの危険性あり
  ・舌の感覚と運動の発達の遅れは、舌の形態にも影響し乳児の舌形態が継続される
  ・摂食発達の遅れはプレスピーチとして2歳半以降まで言葉の遅れに影響する
  ③信頼の確立
  ・舐め回しは、不安解消による心の安定や認知性の発達のためにも必要
  ・吸啜運動からおしゃぶりや指吸いへの転換は、
    母子の愛着形成つまり信頼の確立のための行動と理解した方がよい。
母子の信頼形成に時間がかかる子は、不安が大きく環境適応が遅いためにNon-Nutritive Sucking(非栄養の吸引)が継続することで咀嚼運動へスムーズに移行できないために舌の低位や舌突出癖のような前後運動が残存したと考える。意識的な運動の滞りが根底にあるように感じられる。

3.吸啜嚥下運動の機序
 ①哺乳の3原則
    「吸啜」と呼ばれる舌運動
    「吸着」と呼ばれる口唇による母乳や乳首への密着
    「嚥下」運動
 ②吸啜運動は、
   口腔機能にとって重要な「陰・陽圧形成」と「咽頭腔閉鎖」だけでなく、
   すべての口腔機能動作に必要な顎・舌・口唇・頬・口蓋・咽頭における
   特殊で巧みな協調運動の基盤を形成すると考えられる。

4.嚥下と呼吸の相互関係
 ①若年健常者
  ・若年健常者では無意識にする嚥下が呼吸の呼気中に
   「嚥下性無呼吸」をはさんで呼気中に終わることで誤嚥を防止する
 ②高齢者の誤嚥
  ・高齢者になると嚥下が吸気中に起きる頻度が増加する。
    また、嚥下後の呼吸が吸気から始める頻度も増加する。
  ・連続して飲み込む嚥下になると嚥下後に吸気になる割合が高まる
  ・多量の食塊を複数回連続して嚥下した時は
   「呼気ー嚥下ー吸気」というリズムになることが増加することで誤嚥しやすくなる  ・1回の吸気から呼気までの呼吸時間は3.2秒
    嚥下すると5.4秒
    嚥下性無呼吸の時間は食物に関係なく0.6秒前後
  ・男性の方がむせや誤嚥を起こしやすい←喉頭が重く下がっている
 ③呼吸サイクル
  ・習慣性口呼吸者では呼吸サイクルに乱れが多い
    ところが口唇閉鎖を行わせると、呼吸サイクルの乱れは消失する。
    つまり、口唇閉鎖は咀嚼だけでなく嚥下にとっても重要な役割を担っている

5.口唇閉鎖が咀嚼の第一歩
 ①口唇閉鎖
  ・哺乳時は上下の口唇を運動させ閉鎖することはできない
  ・離乳初期では、下口唇だけが運動して口唇を閉じている
    つまり、上唇は下降運動ができない状態。
  ・その後も上唇の下降運動が十分獲得できなければ
    口腔閉鎖は遅れ上唇は富士山型になり下口唇は突出する
 ②上唇の運動性不良
  ・口唇をすぼめて尖らすことができない。
  ・口笛やウインクもできない。
  ・上唇が顔面の微細な運動を左右する

6.咽頭腔
 ①咽頭腔は空気と栄養の共通路
  ・呼吸系と栄養系が、咽頭で交差するため嚥下をするたびに呼吸を止める
  ・嚥下と呼吸と発語を一度にできないため、これらの機能を切り換える機構を持つ
  ・3つの口腔機能(鼻呼吸と口呼吸、咀嚼と嚥下、スピーチ)は、
    咽頭にある3つの閉鎖機能(鼻咽腔閉鎖、口峡閉鎖、喉頭蓋閉鎖)を
    お互いに協調させながら切り換え開閉させることで機能する
 ②鼻咽腔閉鎖
  ・軟口蓋の挙上と咽頭後壁および側壁の絞扼運動により閉鎖を行う
  ・嚥下機能時と発音機能時では、閉鎖の機序が異なる
    嚥下機能時では、陽圧形成に重点が置かれ、
     軟口蓋の挙上だけでなく上咽頭収縮筋や口腔周囲筋までが協調して働く
    構音機能では空気を遮断して陰圧形成し音を明確に作り出す

 ③口峡閉鎖
  ・軟口蓋は下降し奥舌と密着、さらに左右の口蓋舌弓と咽頭舌弓も正中で密着
  ・安静鼻呼吸時における軟口蓋と舌の密着による口峡閉鎖は大切
軟口蓋と舌の密着が弱いと鼻閉の程度が少なくても口峡閉鎖は破られ、呼吸気は容易に口腔内へ侵入し下顎の後方回転や舌の低位を作り口腔内に呼吸路を作り口唇閉鎖を破壊して口呼吸が開始される

 ④上咽頭収縮筋の働き
  ・習慣性口呼吸者口唇閉鎖不全者は
    固定源となる頬筋や口輪筋などの口腔周囲筋が弱いために
    上咽頭収縮筋を強く収縮できないことで嚥下機能が低下すると考えられる

7.全身運動発達と口腔運動発達におけるスキル
 口腔機能を発揮するには、口腔機能の安定動作を支える体感を始めとした頸部や頭部の姿勢保持が欠かせない。体幹や頭部を支えられない子どもは、悪い姿勢で顎顔面と体幹・頭部の筋のバランスを持つことになる。

  ・全身運動発達において安定した協調運動を行うには
   「安定」「可動」「分離」という順で発達することが重要。
  ・口腔発達も体幹の安定と粗大運動である吸啜運動による安定した可動が必要。
  ・咀嚼開始時には口唇閉鎖が必要となる。
    上下口唇の閉鎖が、口輪筋や頬筋の安定した運動を可能にし、
    さらには嚥下時の上咽頭収縮筋の強力な括約を作り出す。
    吸啜から咀嚼への転換には、口唇閉鎖と顎と舌の運動性が重要
  ・乳幼児がしきりに顎を出す動作は、粗大運動からの下顎の分離作業であり、
    舐め回しは、口唇や顎と舌の可動と分離動作のために欠かせない
  ・舌の運動性が低い乳幼児は、下顎の前後左右への運動もできないことから、
    下顎の運動を行ってから舌の訓練を行うと舌は可動分離された動作がしやすい。
    この際に自分の手で口腔や舌を触るアクティブタッチをすることが重要

抄録
講演Ⅰ 保育園における食育計画の実践
 平成21年4月に保育所保育指針が改定されてから保育の中に食育の視点が位置づけられ、そのことから多くの保育園で「食育」についての取り組みが求められるようになりました。さらに昨年度より給食向上事業により栄養士の位置づけが配慮されるようになり、入所児童の状況に応じた献立作成や食物アレルギー等の児童への配慮など、保育園に対してきめ細やかな対応が求められて栄養士の役割も大きく期待されるようになりました。
 それまでの保育園で行われてきた食育についての取り組みとの違いは、6年間の発達過程を見通し意義のある計画を全職員で共通理解し実行していくところにあります。今の子どもたちと取り組んでいる食育の実践をお伝えできればと思います。
【講師略歴】
松平美穂
 平成 7年 3月  北陸学院短期大学食物栄養科 卒業
    同年 4月  ミヤモトクリニック勤務
 平成10年 4月  聖ヨハネ乳児保育園勤務
 平成16年 4月   小立野善隣館愛児園勤務

講演Ⅱ  小児の口腔機能発達の栄養行動発達への影響
 健常な乳幼児期の子どもに関するテーマを考えるとき、その子どもの全体像をとらえる観点を忘れないようにしなければなりません。医療に関わらず子どもに関わる専門職は、子どもを全体として包括的に捉える必要があります。
 子どもは「生物学的存在として生まれ、社会学的存在として育つ」といわれるように、子どもが持つ自然に「育つチカラ」と大人社会による環境が影響する「育てるチカラ」が働くことで、人間として必要な機能を獲得していくことになります。子どもに関する何かを考える時も生物学的な観点と社会学的観点だけでなく、さらに広い知識と多彩な観点からの学際的な協力関係が必要です。
 子どもの食の発達を考えた時も、科学的に裏打ちされた栄養学的な発達の知識も、その子どもの口腔の形態・構造や機能が準備できていなければ活用できません。こうした医学生物学的な観点だけでなく、子どもの持つ気質やそれを基盤とした母子関係や家族関係など生活環境は、口腔機能を発達させる機序として重要であり、食行動は大きく影響されます。
 口腔機能は、体の機能の一部であり全身との関わりのなかで協調・協同しながら獲得されます。特に、口腔機能は、「筋力を必要としないにもかかわらずその生命活動が高次の脳機能に直結する」のが大きな特徴です。顎顔面口腔の構造的な特徴のために、口腔機能は嚥下機能と呼吸機能そして発話機能の3つの機能を同時に機能させることができません。それで、機能を瞬時に切り替えることが求められます。さらに、同じ筋肉や神経が異なる機能を行うために多数の筋肉が協調的に半自動調節運動を行うのが特徴です。また、半自動調整機能は、意識と無意識とを行き来しながら刻々と変化する環境に対し適応できるフィードバック機構を形成し運動しなければなりません。
 環境変化に対応できる運動が形成できない時、栄養行動に問題が生じます。例えば、一品食べは、多様な食材に一度に対応できないことを現しています。葡萄パンであればパンに対する運動と干しぶどうに対する運動を同時に変化しながら対応できなければパンはパン、葡萄は葡萄という食べ方になります。魚の骨が出せないのも葉ものの野菜が噛めないのもこうした自動協調運動が育っていないことになります。
 それでは、こうした運動はどのように獲得されるのか?獲得するには何が必要なのか?それを知るためには、胎児期からの運動発達や口腔を形成する感覚(触覚と固有感覚)の生理、さらには全身と口腔運動発達におけるスキルを理解する必要があります。
 歯科医療者は、こうしたことを理解した上で口腔機能の発達を誘導し良好な口腔構造の発育や口腔疾患の予防管理を目指すだけでなく、これらの情報を栄養士や子どもの専門職に伝えることで、子どもの栄養支援に加わることができるのかもしれません。
【講師略歴】
元開富士雄
 子どもの口腔機能発達と口腔機能専門の歯科医師として大学卒業以来歩む。口腔機能の発達と全身機能の発達との関係について保育士や看護師、栄養士を中心に全国で講演活動中。現在は、診療のかたわらNPO口腔健康推進協会サークルアイ副会長として市民を対象に食や免疫、腸内細菌や呼吸のスペシャリストや名誉教授たちを迎え講演会の開催や健康長寿のための勉強会講師など市民活動を行う。また、口腔ケアと口腔機能の獲得・機能維持改善のためのセラピスト(オロフェイシャル・セラピスト)を育成するための専門学校を開設。また、腸内常在菌フローラ研究の第一者である東大教授・服部正平先生とメタゲノム解析によるヒト常在菌研究のための日本ヒト常在菌研究会を2011年設立。
 昭和57年  日本大学歯学部卒
    同年    日本大学歯学部 小児歯科学教室入局
 平成 2年  横浜市青葉区にて「げんかい歯科医院」開院
 平成20年  NPO法人口腔健康推進協会サークルアイ副会長
 平成23年    日本ヒト常在菌研究会副代表
 平成26年  一般社団法人オーラルヘルスケア・ジャパン理事
 平成20年~ 横浜市保育士研修会講師
【最近の掲載文献】
 1)小児歯科臨床 2011年10月号~12月号連載
     「歯科子ども学・考」口から子育てを考える
     自立という観点から/運動という観点から/感覚という観点から
 2)食べ物通信  2012年2月号
          『特集 無意識に口呼吸していませんか?』
 3)キリスト教保育 2012年5月号・6月号連載
          「口からのぞく子どものこころとからだ」
 4)DHstyle 2013年 増刊号『口腔内の病変、異常に気づく観察眼を養おう』
     「小児期 子どもの習癖異常」
 5)恒志会会報 2014年 口腔と脳 特集「口と触覚」
 6)バイオプログレッシブ・スタディクラブ会誌 2014 No24
          「口腔機能を発揮させる機序とは」
          口腔機能発達メカニズムに対する考慮事項

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