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抗凝固剤投与中の患者さんの抜歯

2009年04月09日(木)


 最近小児用バファリンなどの抗凝固剤を中止せずに抜歯することが増えてきている。歯肉のダメージをできるだけ少なくなるように抜歯したり、縫合をしっかりするなど注意をしている。しかし、薬剤の違いや投与量、抜歯難易度、抜歯対象歯周囲歯肉の状態などについて今後検討すべきと思う。
 抜歯のときに休薬する医師、歯科医師もいるが、INR2.5未満であれば内服を継続したまま抜歯は可能である。また出血しても目に見える場所なので、とにかく圧迫していれば必ず止まる。

    患者   75歳女性
    初診   2008.9.16.
    主訴   左上1番の補綴物脱離
    現症   歯根破折
    全身状態 今年6月に僧帽弁を機械弁に置換手術、その後ワーファリンを内服
         7月に退院
    経過   
    9/16 主治医循環器内科に抜歯と全身状態やワーファリンの影響を相談する。
    9/17 主治医から「機械弁にて置換されているので、ワーファリン内服のままで処置をお願いする。現在のガイドラインでは、ワーファリン内服のままで抜歯を推奨している。」と返事が届いた。ワーファリンは1日1回夕食後2.5mg内服していた。
  当日午後4時頃、浸潤麻酔後、慎重に抜歯、創部を縫合、止血確認し帰宅した。抗生剤を7日分内服指示した。
    9/18 昨晩から朝にかけてじわじわと出血していたと訴えたが、来院時には止血していた。
    9/19 出血が止まらないと来院する。抜歯窩と隣在歯の歯肉縁からじわじわ出血していた。圧迫にて止血を確認し1時間ほど経過を見て、トランサミンカプセル750mgとアドナ30mgを食後3回5日分を投薬した。
    9/20は止血していた。

  ワーファリンの作用
 ワーファリンは血液中に直接作用するわけではない。血液を凝固させる物質は数多くあるが、そのうちのいくつかが肝臓で作られている。その合成にビタミンKが関わっていて、ワーファリンはそのビタミンKを阻害することで、抗凝固作用を発現する。このためワーファリンは内服してからその効果が現れるまでに2~3日かかる。同じ理由で内服を中止してからも2~3日は効果が持続する。

参考に
抗血栓療法患者について
   宮田勝氏の講演を聴いて
kojima-dental-office.net/20090404-2392

「抜歯と抗凝固剤」
石川県立中央病院 歯科口腔外科 診療部長 宮田 勝(金沢市)

 血栓塞栓症の予防・治療に用いられる抗血栓薬に、経口抗凝固剤と抗血小板薬があり、それぞれの代表薬は、ワルファリンとアスピリン、パナルジンである。
 抗凝固療法下での抜歯は後出血が懸念されるため、薬剤の投与中止あるいは減量して施行することが多かった。しかし、抜歯時にワルファリンを中止すると〇・九%に血栓・塞栓症が生じ、死亡の転帰をたどるとの報告があり、ワルファリン中断による血栓・塞栓症発症が問題になっている。そのため「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(二〇〇四)」では、抜歯施行時は、ワルファリンを原疾患に対する至適治療域にコントロールした上で、ワルファリン継続投与下で行うことが望ましいとしている。
 また、最近は虚血性心疾患の治療の際に薬剤溶出性ステントが多用されており、そもそも抗血小板薬の中止は好ましくない。現状では、抗血栓薬を中断して抜歯する歯科医師が多いし、医師側でも、抜歯前の中断は止むなしと考えて中断の指示を出す場合が多い。医師と歯科医師が連携して、少なくとも骨削を伴わない普通抜歯であれば、抗血栓薬は継続のままで抜歯が可能であることを共通の認識として、抗血栓薬中断による合併症の発現を避ける必要がある。
 私どもは、PT-INR(Prothrombin Time-International Normalized Ratio)3.0以下であれば、ワルファリンは中断せず、抗血小板薬も継続のままで、局所止血処置を行い、抜歯している。日本では、ワルファリン継続下での抜歯による抜歯後出血の発生率は四%前後とされる。いずれも軽度の後出血である。
 医師側は、手術侵襲の大きな抜歯かどうかは予測できないので、普通抜歯であれば、歯科医師側から、抗血栓薬を中断しないで、抜歯を行うことを対診の際に伝える必要がある。また、原疾患の病名、病態、併用薬、ワルファリン投与中の場合は最近(少なくとも一週間以内、できれば当日)のPT-INR値を確認する。
 抜歯時の注意としては、人工弁置換術後の方には抗菌薬の予防投与、また、炎症のある部位ではあらかじめ消炎しておく。後出血の大多数は、治療のストレスに伴う血圧の上昇である。縫合など局所止血は確実に行い、多数歯抜歯は数回に分けて行う。
 患者さんに安全・安心な治療を提供するためには、医科・歯科の共通認識の構築がぜひ必要である。

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