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歯科レーザーが拓く先端予防・治療

2004年08月28日(土)


講師 粟津邦男(大阪大学大学院工学研究科教授)
サタディナイトセミナー
日時 2004年8月28日(土)午後7時~9時
場所 都ホテル
主催 保険医協会歯科部
メモ
1.レーザーが生体に引き起こす様々な現象のメカニズム
2.波長よる組織の吸収特性の違いを利用して選択的に治療効果を上げる
    つまり、健康組織を守りながら必要な治療ができるようになる
3.レーザー波長の長短が組織への到達深度を決めます
  透過するレーザー        半導体レーザー、Nd:YAGレーザー
  表面で吸収されるレーザー        炭酸ガスレーザー、Er:YAGレーザー
4.各種レーザーの臨床上の適応範囲
   特徴を理解して使い分け、できないことも知ります
   硬組織適応
5.パルス幅を短くすると精度が良くなります
講演記事
 今回のサタディーナイトセミナーは、最新のレーザーを用いた根面カリエスなどの予防について、阪大工学部大学院教授の粟津先生をお招きし、講演を開催しました。
 お話は、従来の歯科用レーザーの概念などの基礎的な説明に始まり、次いで各種レーザーの使用方法や臨床的効果の基礎をお話しされました。レーザーの『波長の長さ』と『照射時間』が臨床的な効果に違いを及ぼすことが重要であると指摘されました。つまりレーザーの波長の長短によって止血効果の程度や、治癒するまでの期間に差ができたりする事。照射時間を短くすることで照射部位の温度を一気に上昇させて炭化することを防ぐことができる事の2点です。その結果として歯牙をきれいに削ることができる理論を明快に実験写真を基に解説されました。
 また、粟津先生の研究チームは世界に9台しかないあらゆる波長のレーザーを作り出すことのできる自由電子レーザー(FEL)を駆使し、最先端の実験をしていることが特徴であることなども吐露されました。その装置を用いることで、象牙質をエナメル化できる最適な条件が、レーザー波長9.4μm近傍であることを突き止めました。それは象牙質の結晶構造を焼きなましの原理でエナメル質の結晶構造に近づけるというものです。ただし、それだけでは不十分でパルス幅を5ピコセカンド(5兆の1秒・もっと短時間の130フェルト秒・fs=10の15乗分の1秒単位ならもっとクリアな形成が可能)というのが絶対条件であるそうです。長い時間だと歯牙は黒く炭化してしまうらしいですが、超短時間ならタービンで歯牙を形成するよりもはるかに細かなオーダーで、正確に歯牙を削ることが可能になります。まさに実用化になれば夢のレーザーの誕生ということになります。
 しかし、その装置は今のところ小さな家一軒くらいの大きな装置らしいですが、改良は充分可能で、日々の臨床でそのレーザーを当たり前のように使える日が近い将来やってくるとの言葉には説得力がありました。
 また、番外編として、アテローム性の動脈硬化症の治療にも、血管壁を損傷しないで邪魔な組織のみを除去できることが実験的には証明され、後は実用化に向けて突き進むだけという状況であることも報告され関心を引きました。

案内
 レーザーの基礎について工学部の教授から直接話が聞ける絶好のチャンスです。レーザーが生体に引き起こす様々な現象のメカニズムを理解できることと思います。レーザーを特徴づけるパラメーター(①波長、②パワーフルエンス、③パルス構造)を独立に制御する事により、①吸収特性の違いによる影響部位の選択、②口腔組織におけるレーザー生体相互作用の選択、③相互作用の複合的なコントロールが可能になります。すなわち、カリエス治療・予防のための硬組織切削あるいは歯質強化、軟組織の切開・止血など、種々の治療行為に対し、パラメーターを適切に設定することにより低浸襲にすることができます。
 基礎を知り得てはじめて、臨床経験を重ね応用範囲を広げることができると思います。
 最近、テレビなどの番組やコマーシャルで予防歯科という言葉をよく見かけるようになりました。歯科界では最近まで、修復治療が中心で痛みがあったら来院してもらい治療をしていました。そして、治療した歯牙や歯周組織が再び罹患してしまうという経験を幾度となく繰り返してきました。そこで最近の診療体系においては、カリオロジー、ミニマムインターベンションやヘルスプローモーションの理念に基づいた臨床法などへの転換が進んでいます。また歯周疾患においては、健康保険でのメンテナンスの導入など確実に予防へと移行しつつあります。その流れを後押しするかのように、昨年の暮れ、某全国紙で歯科治療において画期的な予防法が開発されつつあると報じられ反響を得ています。それは今までになかった予防方法で、レーザーを用いてカリエスを予防しようというものです。
 今回のセミナーは、レーザー治療の第一人者である大阪大の粟津先生をお迎えして、どのように歯質を改変させるのかわかりやすく解説してもらいます。なお、今回は衛生士の皆さんにもわかるようにと先生にお願いしてあります。
 多くの皆さまのご参加をお待ちしています。なお、会場の都合もありますので、できるだけ早めに申し込みください。(申込者多数の場合は、先着順とさせていただきます。)

講演抄録
 高齢者層では、歯周病・加齢に伴う歯根面う蝕が歯保存の観点から問題視されてますが、有効な既存の予防法はなく、その予防法の確立が急務の課題です。
 我々は、従来法にない虫歯予防を行うために、歯牙硬組織改質用レーザー照射システムの最適化・高効率化、レーザー治療の安全性確立のための音響信号リアルタイムモニタリング技術、レーザー虫歯予防システムの実用化を進めています。既に、基礎研究によって、歯根面う蝕予防法として波長9.0μm近傍のリン酸基励起による硬組織表面改質が有効であることを原理的・実験的に明らかにし、現在レーザー照射によるう蝕予防技術の実用化を目指しています。本講演では、う蝕予防、音響モニタリング技術の原理実証の基盤技術などをわかりやすく紹介します。(粟津邦男)

講師略歴
Kunio AWAZU         
 1958年京都生まれ。神戸大学工学博士、順天堂大学医学博士。順天堂大学消化器内科にて肝色素代謝の光計測研究に従事後、University of TEXAS, MD ANDERSON  CANCER CENTERレーザー生物学研究室(1993年~1995年)にて、乳がんに対するPDT基礎研究・生体へのフォトラベリング研究に従事。帰国後、東京医科大学客員講師、自由電子レーザ研究所(通産省系プロジェクト研究所:1995年~2000年)主任研究員・部長を経て、2000年5月より大阪大学大学院工学研究科電子情報エネルギー工学専攻教授。
 現在は、阪大自由電子レーザー研究施設にて光量子プロセス工学講座を担当し、分子振動領域を中心としたレーザー医科学、量子ビーム生物学研究に取り組みます。最先端のレーザー技術を医科学に活用するには、「レーザー医学」を専門にする研究者・技術者の養成が急務と考え、ダブルメジャーをもつ人材が育っていけばと切望しています。学会では、日本レーザー医学会理事・学会誌編集委員長、日本レーザー歯学会理事、レーザー学会編集委員等を務めており、昨年日本レーザー医学会総会賞受賞。最近、東京歯科大学加藤先生らと「一からわかるレーザー歯科治療」(医歯薬出版:共著)を出版しましたので是非ご一読ください。
兵庫県西宮市在住

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